2022年9月14日。桶川の隠れた名店・とんかつの「かつ石」に行ってきた。2019年春まで大宮・南銀座の繁華街にのれんを出していたが、46年目を迎えた折に、大宮の店をたたんで、2019年6月に桶川市上日出谷(かみひでや)に移転。奥さまのもてなしと、ご主人の揚げるとんかつは健在だった。

かつ石初訪問は2014年

とんかつ定食

ボクは、大宮時代からのファンだった。かつ石をはじめて訪れたのは 2014年9月4日。8年前にさかのぼる。ランチタイム時だったので、店内は満席だった。10分ほど外で待ってカウンター席に通され、ロースかつ定食を注文した。
 
上の写真は、はじめて大宮のかつ石を訪れたときに食べたロースかつ定食。古いデジカメで撮ったので画像は鮮明ではないが……。なんとも旨いとんかつだった。
 
黙々ととんかつを揚げている寡黙そうなご主人と、店内でテキパキと愛想よく仕事をこなしていく奥さんの姿が、妙に心にとまった。
 
そんなご縁で、以来、大宮のかつ石には、年に数回、通うようになったが、ボクの仕事が忙しくなったこともあって、かつ石とは疎遠になってしまった。

かつ石が閉店!?

風の便りで、かつ石が店を閉めた、という話を聞いたのが、3年前の2019年。え~、ショック、もう一度、ご主人の揚げるとんかつ食べたかったなぁ……と、思いきや、よく調べたら桶川に移転したとのことだった。

かつ石再訪

かつ石の看板

そんなこんなで、移転したかつ石に早く行きたかったのだが、奥さまが体調を崩したり、コロナ禍でしばらく休業していたりと、なんだかんだ重なって、ようやく、桶川のかつ石に行くことができた。
 
かつ石の看板を見たときは、懐かしさのあまり、涙が出た(ホントか)

のれんをくぐる

かつ石|のれん

かつ石には11時半に到着。12時に予約をしておいたので、少し早すぎたかな。店の前で、奥さまが庭の手入れをしていた。
 
ボクの顔を見るなり、「あら~、久しぶりねえ。来てくれたの? うれしいわ~」と、顔を覚えていてくれた。うれしいのはこっちだ。
 
のれんをくぐって中に入った。

ご主人がお出迎え

玄関

「いらっしゃい」。玄関先で、ご主人が笑顔で出迎えてくれた。大宮でやっていたときよりも健康そうに見える。ご主人の元気な姿を見てホッとした。

席に案内される

テーブル席

奥さまが奥のテーブル席に案内してくれた。お店というよりも自宅に招かれたような雰囲気。なんだか心がなごむ。生け花や掛け軸などの調度品もすてきだ。

厚切りロースかつを注文

ボクは、厚切りのロースかつ(300グラム)を定食で、同伴した仕事の相棒は、海老フライとヒレかつのミックス定食をいただくことにした。

席はテーブル席が4席

部屋

席は全部で4席。四人掛けのテーブル席がふたつと、廊下に二人掛けのテーブル席がふたつ。四人掛けのテーブル席の間にはふすまがあるので、個室にもできる。お客さまにゆったりとくつろいでもらいたい、というご夫婦の気持ちが見てとれる。

しばし眺めを楽しむ

料理が運ばれてくるまでのあいだ、しばし眺めを楽しんだ。

見晴良好

景色

かつ石は小高い丘の上にあるので見晴し良好。今日は秋晴れだったので景色も抜群だった。すぐ隣には、鎌倉時代の創建と伝えられる氷川神社(上日出谷〈かみひでや〉氷川神社)が鎮座している。神様のご加護もあってか、じつに清々しい。

手入れの行き届いた庭

かつ石の庭

庭も手入れが行き届いている。庭の手入れは奥さまの担当。飛び石が並べられていて、ししおどしもある。庭というよりもさながらちょっとした庭園だ。

置物と生け花

部屋に戻って置物や生け花を拝見させていただいた。

置物

置物

陶器や置物などはすべてご主人の見立て。

掛け軸

掛け軸

絵皿に果物が載っている絵の掛け軸。おもしろい構図だ。

生け花

生け花

室内や廊下などのお花は奥さまが生けている。なんとも癒される。

料理

「おまちどおさま」。奥さまが小鉢を運んできてくれた。

小鉢

小鉢

まずは小鉢、って、全部で 6客もあるんですけど。普通、料理に出てくる小鉢って、多くても 2客でしょ。

小鉢も最初は、

3客だったのよ。ところが、主人はお客さまに褒められると、それがうれしくて、3客が 4客になり、4客が 5客にって、だんだん増えてきちゃったのよ(※1)。小鉢だけでおなかがいっぱいになっちゃうわよね。

と、奥さんが笑いながら話してくれた。

※1 小鉢はいつも 6客出るとはかぎらない。そのときの食材によって、5客のときもある。

ナスの揚げびたし

レモン醤油のナスの揚げびたし。食感サイコー。

筑前煮

筑前煮

タケノコがめちゃくちゃうまかった筑前煮。

オクラとヤマイモの出汁醤油

オクラとヤマイモの出汁醤油

オクラの粘りがハンパなかったオクラとヤマイモの出汁醤油。

甘酢漬け

甘酢漬け

ミニトマト・キュウリ・ミョウガの甘酢漬け。ミョウガが美味。

甘辛煮

甘辛煮

干しシイタケとフキの甘辛煮。ご飯がすすみそう。

ゴマ和え

ゴマ和え

ナスのゴマ和え。ゴマの風味がたまらなかった。
 
もともと料理が大好きなご主人。いつかは一日数組限定で、お客さまに、ゆったりと食事を楽しんでいただける、そんなお店をやりたかったそうだ。どの小鉢にもご主人の思いが込められている(※2)。

※2 季節やそのときの食材によって小鉢の中身は変わる。

小鉢をいただきながら奥さまと懇談

なぜ桶川に移転を?

大宮では、1974年(昭和49年)から2019年(令和元年)春まで、45年間やりました。ランチタイムから夜の部まで主人と二人で切り盛りするのが、トシとともにきつくなってきて。おまけに私が大病しちゃって……。
 
70歳を過ぎたので、45周年を節目に、これからは、一日数組限定で、お客さまをもてなすお店をやりたい、という主人のかねてからの希望もあって、見晴しのいい高台にあるこの場所にのれんを出したんです。

なじみの不動産屋さんが見つけてくれたこの場所をご主人が一目惚れ。中古物件だったので、自宅を兼ねた店舗にリフォームし、2019年の6月12日に、オープンさせた。
 
オープン後は、コロナ禍や奥さまの体調不良などが重なって、休業した期間もあったが、大宮時代の常連客が家族連れで訪ねてきてくれたり、地元の方々にも評判が少しずつ広まって、今は夫婦ともに充実した毎日を送っているそうだ。
 
基本的に、かつ石の料理はすべてご主人ひとりで作っている。奥さまはいっさい手を出さない。奥さまは、お給仕と接客担当。また、小鉢で出す野菜のほとんどは、奥さまが畑で作ったものだそうだ。
 
夫婦二人三脚、お互いの領分には立ち入らず、といったところか。



そして――
 
厨房に戻った奥さまが、メイン料理を運んできてくれました。

とんかつ登場

かつ石のとんかつ

お待ちかねのとんかつ登場。ご飯と味噌汁、それに漬け物を従え、威風堂々たる姿。名横綱・北の湖の土俵入りをほうふつさせる(北の湖はちょっと古いかナ)

せっかく数年ぶりにご主人のとんがつをいただくんだからということで、ボクは、通常のロースかつではなく、厚切りロースかつの 300 グラムを注文した。
 
ちなみに、かつ石の厚切りロースかつは 250グラム・300グラム・350グラム・400グラムの 4種類。ご主人の「最初は 300 グラムにしておいたほうが無難だよ」との忠告に従って 300 グラムにして正解だった。
 
350 グラムだと、ちょっと食べきれなかったかも。

どうです? この厚さ!

とんかつの断面

どうです? この厚さ! すごいですね~。これぞ厚切り、ザ・厚切りロースかつ、看板に偽りなし。

ソースをかける

とんかつにソースをかける

そこに自家製とんかつソースをかける。キャー、もうたまりません。ボルテージが一気に上がって、めまいがしてきそう。

いただきま~す

厚切りロースかつの断面

それでは、からしをちょっとつけまして、かつ石の厚切りロースかつ、いただきま~す。コロモはカリカリ、肉はやわらかくジューシー、脂身がこれまた甘くておいしい。
 
こんなにおいしいとんかつがいたたげて、リンダ困っちゃう(かなり古いナ)と、もう自分でも何を言ってるんだかさっぱり分からなくなってしまった。
 
ご飯と味噌汁もまたおいしかった。つけあわせの千切りキャベツとポテトサラダもよかった。
 
あんまりおいしすぎて箸が「もうどうにも止まらない♪」と、またまた山本リンダが登場してしまうほど、おいしいとんかつだった。

海老フライとヒレかつのミックス定食

海老フライとヒレかつのミックス定食

同伴した相棒が頼んだのは、海老フライとヒレかつのミックス定食。ご主人の話によると、女性に人気のメニューとのこと。

海老がプリプリ!

ヒレカツと海老フライ

厚切りロースかつを前に興奮を抑えきれないボクを尻目に、「ヒレ肉はやわらかくて肉の旨みがぎゅっと詰まっている感じです」「海老も大きくてプリプリ、尻尾までいけちゃいますね」と、冷静に感想を述べる相棒との興奮指数の温度差に、じゃっかん戸惑ったが、リンダ困っちゃう、というほどではなかった。

食後のデザートとコーヒー

食後のデザートとコーヒー

とんかつを食べ終え、おなかいっぱい、もうなんにも食えねぇ、と、思っていたところに、「おなかいっぱいになりました?」と、奥さまが、食後のデザートとコーヒーを運んできてくれた。

デザート

栗の渋皮煮とクリームチーズのムース

デザートは、栗の渋皮煮とクリームチーズのムース。とんかつを揚げているご主人からは想像もできない、なんともおしゃれな一品。ふわふわで口どけもなめらか。栗の渋皮煮もていねいに作ってある。秋を感じるおいしい甘味だった。

コーヒー

コーヒー

コーヒーはアメリカンテイスト。もちろんインスタントなんかではない。ちゃんとていねいに淹れてある。ご主人が見立てたカップアンドソーサーもなかなかかわいい。
 
コーヒーをいただきながら食後の余韻にひたった。

感想

かつ石のとんかつ定食

大宮時代の繁華街にあったかつ石は、いわゆるとんかつ屋だったので、客層もサラリーマンが大半を占め、あ~、食った、食った、楊子シーハー、という雰囲気のお店だった。
 
ところが桶川のかつ石はもはやいわゆるとんかつ屋ではない。小鉢6客から始まってメインのとんかつ、ご飯・味噌汁、食後のデザートにコーヒーと、これはもうとんかつ会席と呼ぶにふさわしい豪華な御膳だ。
 
大宮のとんかつ屋時代は、「とんかつ定食(ご飯・味噌汁・おしんこ付き)」と書いた紙を壁に貼っておけばよかったが、桶川のかつ石は、そうはいかない。
 
今日いただいた御膳を献立表に書くとしたら
 
御献立
 
先付
・茄子の揚げ浸し
・筑前煮
・オクラと山芋の出汁醤油
・茗荷の甘酢漬け
・干し椎茸の甘辛煮
・茄子の胡麻和え
揚げ物
・厚切りロースかつ300グラム
ご飯
止め椀
香の物
水菓子
・栗の渋皮煮とクリームチーズのムース
・珈琲
 
と、こうなる。
 
なので、食べたあとは、食った、食った、旨かった、なんという下品な言葉づかいは厳に慎まなければいけない。あ~、うまかった、牛負けた、なんてオヤジギャグは愚の骨頂。
 
ということで――
 
かつ石のご主人と奥さま、
 
とんかつ会席、おいしゅうございました。また来とうござりんす。

後記

生け花

午前11時半に到着して、かつ石を出たのが午後2時。2時間半かけてとんかつを食べたのは人生初。豪華で贅沢な料理と時間を堪能できた。ぜひまたおじゃましたい。

営業情報

かつ石|桶川市上日出谷

かつ石(かついし)の住所は埼玉県桶川市上日出谷(かみひでや)17-1( 地図 )。郵便番号は 363-0026。営業時間は(昼)11時半から15時(夜)17時~。月曜定休。昼も夜もすべて事前予約制。電話での予約が必要。電話番号は 048-786-2161。
 
アクセスは、電車だと、JR高崎線・桶川駅西口からタクシーで約10分。徒歩だと約30分超。車では、川越栗橋線(埼玉県道12号)「下日出谷」交差点から北へ300メートル。上日出谷氷川神社の表鳥居・西側の側道を入ると「かつ石」の看板が見える。駐車場は5台。お店のホームページや SNS はない。