『遠野物語』(柳田国男)を読んでみたいと思っている大人の方に、私が実際に読んだ本の中から3冊厳選して、おすすめ本を紹介する。どの本もわかりやすい内容なので楽しく読める。
遠野物語おすすめ本
水木しげるの遠野物語
一冊目。『遠野物語』(とおのものがたり)をはじめて読む方に、おすすめの本は、『水木しげるの遠野物語』。原本に沿って漫画にしているので、『遠野物語』の世界観をそこなうことなく楽しめる。
読み方としては、最初から順番に通読していってもいいし、座敷わらし・河童・鬼・天狗、雪女……など、有名な話を拾い読みしたうえで、あらためて、第一話から読み進めていってもかまわない。
おすすめポイント
- 原文の趣をそこなわずに漫画で読める
- わかりやすい解説(コラム)付き
- 入門書として最適
本の中身
収録されている解説(コラム)の中から「ザシキワラシ」について書かれた部分を一部、引用抜粋して紹介する。引用元は『水木しげるの遠野物語』水木しげる・柳田国男(小学館)55-58頁
ザシキワラシ(座敷童子)は東北に多い五、六歳の童子の姿をした精霊です。普通は男子ですが遠野には女の子のザシキワラシもいます。
物語では、旧家の没落の予兆として姿を現わします。ザシキワラシが去ってしまうとなぜかその家の身代も傾いてしまうのです。
記録に残る最後の目撃談は、1910年(明治43年)、土淵(つちぶち)の小学校に現われて、その姿が一年生の児童にだけ見えて、先生や上級生には見えなかったと報告されています。
漫画なので読みにくい箇所はない。『遠野物語』の入門書として最初に読みたいおすすめの一冊。
口語訳 遠野物語
二冊目は、『遠野物語』現代語訳のおすすめ本『口語訳 遠野物語』。文語体で書かれた原典を平易な口語訳で再構成している。読みにくい漢字には、ふりがなが振られているほか、ていねいな注釈もついている。
柳田国男の文語体で書かれた文章の大意をそこなわないように、会話の部分を遠野地方の方言であらわすなど、随所に、工夫がみられる。文章もわかりやすいので、物語をイメージしながら読める。
おすすめポイント
- わかりやすい現代語訳
- 漢字にはふりがなが振ってある
- 遠野物語の世界にひたれる
本の中身
本文の中から「河童」(遠野の赤河童)について書かれた部分を一部、引用抜粋して紹介する。引用元は『口語訳 遠野物語』柳田国男/佐藤誠輔・訳(河出文庫)119頁
よその地方では、河童の顔は青いといっているようですが、遠野の河童は、なぜか顔の色が赤いのです。
佐々木氏の曽祖母(ひいばあさん)が、まだ幼かったころのことです。友達と庭で遊んでいたところ、三本ばかりある胡桃(くるみ)の木の間から、まっ赤な顔をした男の子が、こちらをじいっ見ていました。これが河童だったということです。
いまも、この時の胡桃が大木になって残っています。
すらすら読める。『遠野物語』の原典を読む前に、読んでおきたいおすすめの一冊。
新版 遠野物語
口語訳を読んで終わりにしても『遠野物語』の世界にひたることはできる。が、柳田国男の文語体の文章は、じつに味わい深いので、興味があれば、ぜひ原典を読んでいただきたい。
そこでおすすめなのは『新版 遠野物語』(角川ソフィア文庫)。昭和30年(1955年)に初版が出版されて以来、読みつがれ、令和2年(2020年)で、40版を重ねている名著。
解説のほか、年譜、作品、遠野郷地図なども付いている。『遠野物語』の続編ともいえる『遠野物語拾遺』も掲載されているので、柳田国男の民俗学の原点を知ることができる。
おすすめポイント
- 柳田国男の名文に触れられる
- 解説や付属資料が充実している
- 『遠野物語拾遺』も読める
本の中身
本書の中から「ザシキワラシ」について書かれた部分を一部、引用抜粋して紹介する。引用元は『新版 遠野物語』柳田国男(角川ソフィア文庫)24-25頁
旧家にはザシキワラシといふ神の住みたまふ家少なからず。この神は多くは十二、三ばかりの童児なり。をりをり人に姿を見することあり。
土淵村大字飯豊(いひで)の今淵勘十郎といふ人の家にては、高等女学校にゐる娘の休暇にて帰りてありしが、ある日廊下にてはたとザシキワラシに行き逢ひ大いに驚きしことあり。
この神の宿りたまふ家は富貴自在なりといふことなり。
まさに名文。『遠野物語』の原典を読むならこれ一冊でじゅうぶん。
おすすめ解説本
書籍「NHK『100分de名著』ブックス 柳田国男 遠野物語」
- 価格:
- 1,100円(税込)
NHKの人気番組「100分de名著」で放映された「柳田国男 遠野物語」の内容を再編成し、新たに特別章を収録した解説本。
自然について、神様について、人間の生死について、かつての日本人は何を感じて生きてきたのか……。おとぎ話ではない。語られた古層の記憶をたどる(「内容紹介」より)
『遠野物語』のおもしろさや読み方を指南してくれる。