『枕草子』を読んでみたいと思っている大人の方に、私が実際に読んだ本の中から3冊厳選して、おすすめ本を紹介する。どの本も面白い現代語訳になっているので楽しく読める。ふりがなもふってあるのでわかりやすい。

枕草子|講談社

21世紀版 少年少女古典文学館『枕草子』高橋治(講談社)

一冊目は、21世紀版 少年少女古典文学館『枕草子』大庭みな子(講談社)。小学生の高学年向けに編集された本なので、現代語訳がとてもわかりやすい。原文の味わいも損なわれていない。表記は現代仮名遣いになっている。原文は載っていない。
 
『枕草子』底本(319段)・別本(29段)の中から116段が掲載されている。原文は載っていない。カラーの挿絵をはじめ補足の解説やコラムが充実している。時代背景や登場人物の説明も振り仮名付きで詳しく書かれている。

おすすめポイント
  • 感性豊かな現代語訳。読んでいて楽しい
  • ふりがな付きなので、すらすら読める
  • 補足や解説が充実している
本の中身

『枕草子』で、いちばん有名な段(第一段・春はあけぼの)の現代語訳を一部、引用して紹介する。出典は、21世紀版 少年少女古典文学館『枕草子』大庭みな子(講談社)11頁

春はなんといっても明け方。だんだん白んでくる山際(やまぎわ)が少し明るくなって、紫(むらさき)がかった雲がほそくたなびいている。
 
夏は夜、月があればもっとよい。闇(やみ)の夜でもほたるがいっぱいとびかうさま。また、ほんの一つ、二つ、ほのかに光ってとぶのもよい。雨のふるのもまたよい。

わかりやすい現代文だ。原文のリズム感も失われていない。小学生でもテンポよく読める。『枕草子』の入門書として手元に置いておきたい一冊。

すらすら読める枕草子

『すらすら読める枕草子』山口仲美(講談社)

二冊目は、『すらすら読める枕草子』山口仲美(講談社)。原文・現代語訳・解説という形で章立てされている。原文には、すべてふりがながつけられている。
 
300近くの章段から成り立っている枕草子の中から40ほどの章段を三つのテーマ◇男と女のエチケット◇人としてのマナー◇感じる心……にまとめられている。
 
たとえば、「男と女のエチケット」では、

  • ダメな男
  • こういう女はステキ
  • こういう女は見苦しい
  • 男と女はこうありたい
  • こういう男と女はみっともない

という項目で構成されている。どれも興味をそそられる。

現代語訳もおもしろい

この本の特徴のひとつは、現代語訳のおもしろさ。清少納言(せいしょうなごん)の鋭い感性や観察眼が見事に表現されている。
 
原文の文字も大きく、漢字にはすべてふりがながふってあるので、標題のとおり「すらすら読める」。枕草子の魅力は文章のリズム。この本は、声を出して朗読したい。

おすすめポイント
  • 現代語訳がおもしろい
  • 音読するのに最適
  • エチケット集として読める
本の中身

第1章「こういう男はかっこいい」の中から「法師もイケメンがいい」という箇所の原文と現代語訳を抜粋して紹介する。ふりがなは一部省略。引用元は『すらすら読める枕草子』山口仲美(講談社)36頁

●原文…説教の講師(こうじ)は、顔よき。講師の顔をつとまもらへたるこそ、その説(と)くことのたふとさもおぼゆれ。
 
●訳文…説教してくれるお坊さんは、やっぱり顔がよくなくっちゃ。美男のお坊さんの顔をじっと見つめていてこそ、説教のありがたみがあるというものよ。

現代語訳も原文(清少納言)に負けず劣らずのおもしろさ。原文・訳文ともに楽しみたい方にはおすすめの一冊。

枕草子|角川書店

『おくのほそ道』角川書店(角川ソフィア文庫)

三冊目は、ビギナーズ・クラシックス日本の古典『枕草子』角川書店編(角川ソフィア文庫)。現代語訳・原文・解説という形で章立てされている。『枕草子』底本(319段)の中から 78の章段が収録されている。
 
最初は、原文と解説は飛ばして、現代語訳だけを読んでから、そのあと、章段ごとに原文を味わうのが、おすすめの読み方。現代語訳・原文・解説ともに振り仮名がふってあるので読みやすい。ふりがなは、原文は歴史的仮名遣い、現代語訳は現代仮名遣いになっている。
 
解説は絵図や写真などが豊富に使われていて充実している。『枕草子』の入門書としてだけではなく、解説本としても重宝する。巻末の「枕草子の楽しみ方」では、入門書や注釈書のおすすめ本も紹介されている。

おすすめポイント
  • わかりやすく品格のある現代語訳
  • 原文・訳文ともにふりがながふってある
  • 解説が充実している
本の中身

『枕草子』で有名な段(第一段・春はあけぼの)の現代語訳を一部、春と夏の箇所を引用して紹介する。ふりがなは一部省略。出典は、ビギナーズ・クラシックス日本の古典『枕草子』角川書店編(角川ソフィア文庫)11頁

春は、なんといってもほのぼの夜(よ)が明けるとき。だんだんとあかりが白(しら)んで、山のすぐ上の空がほんのりと明るくなって、淡い紫(むらさき)に染まった雲が細くたなびいているようす。
 
夏は、夜(よる)がすてきだ。月が出ていればもちろん、闇夜(やみよ)でも、ホタルがいっぱい飛び交(か)っているようす。また、ほんの一つ、二つ、ほのかに光っていくのもいい。雨の降るのも、また、いい。

わかりやすい。読みにくい箇所もない。品格のある現代語訳になっている。文庫本で『枕草子』の入門書を選ぶなら、これがおすすめ。

女性や女の子におすすめの本

『おくのほそ道』角川書店(角川ソフィア文庫)

番外として女性や女の子におすすめの本を一冊、紹介する。書籍名は『ストーリーで楽しむ日本の古典16 枕草子~千年むかしのきらきら宮中ライフ』令丈ヒロ子(岩崎書店)。
 
いわゆる現代語訳の入門書ではない。清少納言を現代に蘇らせ、清少納言自身が『枕草子』の内容を現代の女性の話し言葉で物語る、という構成になっている。
 
著者は、幼年童話からヤングアダルトまで、独特のユーモア感で幅広い読者に人気の作家・令丈ヒロ子(れいじょう ひろこ)さん。絵は、少女漫画やケータイキャリアなどで活躍している鈴木淳子(すずき じゅんこ)さん。
 
読み出したら、止まらない。それでは清少納言さん、ご本人に語ってもらいましょう。

おすすめ解説本

NHK「100分de名著」ブックス 清少納言 枕草子

書籍「NHK『100分de名著』ブックス 清少納言 枕草子」

価格:
1,100円(税込)

NHKの人気番組「100分de名著」で、2014年10月に放映された「枕草子」(全4回)の内容を再編成し、新たに「女の才能、花開く――清少納言と紫式部と和泉式部」を収録した解説本。
 
エッセーに必要なのは、観察力と批判力、あとはミーハー的好奇心!清少納言が提示したのは、それまでにない斬新な視点だった(「内容紹介」より)
 
『枕草子』の魅力を味わえる。