『古事記』を読んでみたいと思っている大人の方に、私が実際に読んだ本の中から、おすすめの入門書を3冊厳選して紹介する。どの本も原文の内容がわかりやすい現代語訳になっているので、初めての方でもつまつぐことなく面白く読破できる。

古事記

21世紀版 少年少女古典文学館『古事記』橋本治(講談社)

一冊目は、21世紀版 少年少女古典文学館『古事記』橋本治(講談社)。子ども向けの本なので、一にも二にも分かりやすい。本文中のコラム欄では、時代背景や登場人物・神々の系図のほか文中の言葉の解説などが書かれているので、理解を深めることができる。挿絵も楽しい。
 
古事記は「上つ巻」(かみつまき)「中つ巻」(なかつまき)「下つ巻」(しもつまき)の全三巻から編さんされているが、この本は、神話が中心となっている「上つ巻」について書かれているので、読み物としても楽しめる。

おすすめポイント
  • 小学生が読んでも理解できる現代語訳
  • 神様の名前がカタカナになっている
  • 漢字には かな が振ってある
本の中身

『古事記』の「上つ巻」冒頭、神々の始まりについて書かれた部分を引用して紹介する。ふりがなは一部省略。引用元は、21世紀版 少年少女古典文学館『古事記』橋本治(講談社)19頁。

高天原(たかまのはら)に最初に出現されたのは、アメノミナカヌシの神。この神は、天の中心をつかさどる神で、そのために「天の御中主」(あめのみなかぬし)と記(しる)します。つぎに高天原に出現されたのは、タカミムスヒの神。この神は、天の高いところにあってかがやく生命(いのち)の力を表(あらわ)す神で、そのために「高御産巣日」(たかみむすひ)と記します。

読みにくい箇所はない。たいへんわかりやすい現代語訳になっている。古事記の入門書として最初に読みたいおすすめの1冊。

古事記完全講義

『古事記完全講義』竹田恒泰(学研)

二冊目は、『古事記完全講義』竹田恒泰(学研)。古事記編さん1300年を記念して、著者の竹田恒泰(たけだ・つねやす)氏が講師を務め、四日間にわたって行なわれた「古事記完全講義」(約36時間)を文字に起こして書籍化したもの。
 
古事記を初めて学びたいという大人を対象にした講義なので、随所にユーモアを交え、おもしろおかしく古事記を解説している。古事記全編(序文・上つ巻・中つ巻・下つ巻)を話し言葉で読めるので、これを1冊読めば『古事記』のほぼすべてが分かるといっても過言ではない。

おすすめポイント
  • 話し言葉で楽しく読める
  • 脱線する話もおもしろい
  • これ1冊で古事記のほぼすべてが分かる
本の中身

天岩屋戸(あまのいわやと)に隠れた天照大御神(あまてらすおおみかみ)を引っ張りだそうと、神々が岩屋戸の前でドンチャン騒ぎをする「天岩屋戸」の部分から面白いところを一部引用して紹介する。引用元は『古事記完全講義』竹田恒泰(学研)120頁。

そして、天宇受売命(あめのうずめのみこと)。女神様ですが、なんと桶を踏み鳴らして、胸乳(むなぢ)をあらわに出して[中略]舞ったんです。これは、わが国最初のストリップの記録だといわれております(笑)。すると、高天原(たかまのはら)がどよめき、八百万(やおよろず)の神がどっと笑ったのです。[中略]岩戸の中に隠れていた天照大御神は「あれ?」っと思うわけですよ。

全編このような感じで話が進んでいく。著者・竹田氏の話術もあって、難しい内容もしぜんと理解できるようになっている。とにかくおもしろい。512ページと長文だが、楽しく読める。古事記の入門書を1冊だけ読みたい、というヒトにはこの本は最適。

現代語古事記

『現代語古事記』竹田恒泰(学研)

三冊目は『現代語古事記』竹田恒泰(学研)。二冊目で紹介した『古事記完全講義』の著者・竹田恒泰(たけだ・つねやす)氏が古事記全文を現代語に翻訳、書き下ろした入門書。注釈や解説も豊富に掲載されている。
 
文体も分かりやすく、読みにくい漢字にはふりがなが振ってあるが、初めて『古事記』を読むヒトには、ややとっつきにくいかもしれない。読み方としては、最初に、話し言葉で書かれた『古事記完全講義』竹田恒泰(学研)を読んでから、次にこの本を読むと、さらに理解が深まる。

おすすめポイント
  • わかりやすさを重視に書かれている
  • 原文の趣を残したまま全文が読める
  • 入門書のほか解説本としても最適
本の中身

『古事記』「国生み」(くにうみ)の冒頭部分を引用して紹介する。引用元は『現代語古事記』竹田恒泰(学研)19-20頁。

天つ神(あまつかみ)(高天原=たかまのはら=の神全体)はその総意によって、神代七代(かみよななよ)のうち、最後に残った伊邪那岐神(いざなきのかみ)と伊邪那美神(いざなみのかみ)に、下界の海をお指し示しになり「この漂っている国を修(おさ)め理(つく)り固め成せ」と命ぜられ、美しい玉で飾られた天の沼矛(あめのぬぼこ)を賜(たま)い、ご委任なさいました。

古事記原文の趣を残すことに留意して翻訳されているので、現代文としては多少むずかしい箇所もあるが、全体を通じては、無理なく読み進めることができる。二冊目で紹介した『古事記完全講義』竹田恒泰(学研)と併せて手元に置いておくのがおすすめだ。

おすすめ解説本

NHK「100分de名著」ブックス古事記

書籍「NHK『100分de名著』ブックス 古事記」

価格:
1,100円(税込)

タレントの伊集院光さんと阿部みちこアナウンサーが司会を務めるNHKの人気番組「100分de名著」で放映された「古事記」(全4回)の内容を再編成・加筆した解説本。
 
古事記で描かれている神話や伝承をどのように読めばいいのかが、的確・簡潔にまとめられている。スサノオのヤマタノオロチ退治、稲葉のシロウサギ神話、ヤマトタケル神話、海幸彦と山幸彦の兄弟対立……。
 
古事記のおもしろさや読み方を指南してくれる。