『おくのほそ道』を読んでみたいと思っている大人の方に、私が実際に読んだ本の中から3冊、おすすめ本を紹介する。どの本も全文が掲載され、読みにくい漢字には、ふりがなが振ってある。わかりやすい現代語訳になっているので、無理なく読める。

おくのほそ道

21世紀版 少年少女古典文学館『おくのほそ道』高橋治(講談社)

一冊目は、21世紀版 少年少女古典文学館『おくのほそ道』高橋治(講談社)。小学生の高学年向けに書かれた本なので、とてもわかりやすい。原文の現代語訳と俳句には、ふりがなが振られている。カラーの挿絵も楽しい。補足の解説やコラムも充実している。原文は載っていない。
 
『おくのほそ道』に載っている俳句(62句)が一覧で別途、原文と口語訳がまとめられているので、俳句だけを鑑賞することもできる。芭蕉が歩いた道(おくのほそ道の旅程)が地図で解説されているほか、巻末には、与謝蕪村の俳句や近世の名句なども掲載されている。

おすすめポイント
  • 小学生が読んで理解できる現代語訳
  • 本文・俳句ともにふりがなが振ってある
  • 補足や解説も充実している
本の中身

『おくのほそ道』の冒頭部分の原文を現代語訳した箇所を引用して紹介する。ふりがなは一部省略。引用元は、21世紀版 少年少女古典文学館『おくのほそ道』高橋治(講談社)12頁

年、月、日といった時間は限りないひろがりと、永遠につづく宇宙から見れば、旅行者のようなものだ。きては去り、去っては新しいものがおとずれる。人間も時間と同じようなもので、船頭(せんどう)も馬子(まご)も、舟や馬を相手にして、人生という時間の中を旅(たび)していく。つまり、旅の中に生活しているともいえるだろう。

読みにくい箇所はない。わかりやすい現代文だ。本文の船頭と馬子については傍注(ぼうちゅう)で、補足の解説がされている。

俳句の口語訳

冒頭、一節目の俳句と口語訳を一句、引用して紹介する。俳句のふりがなは省略。引用元は、21世紀版 少年少女古典文学館『おくのほそ道』高橋治(講談社)140頁

【原句】草の戸も住み替はる代ぞひなの家【口語訳】住みなれてきたこのみすぼらしい草庵(そうあん)も、いつか住みかわるべき時節がきた。だれかあとで引っ越してくる人が、おひなさまをかざってはなやかになることがあるだろう。この四季の移りかわりのように、あばら家にも生々流転(せいせいるてん)がつづいていくのだ。

『おくのほそ道』の入門書として、手元に置いておきたい一冊だ。

原文は載っていないので、原文も読みたいという方は二冊目に紹介する本をおすすめする。

おくのほそ道(全)

『おくのほそ道(全)』角川書店(角川ソフィア文庫)

二冊目は、ビギナーズ・クラシックス日本の古典『おくのほそ道(全)』角川書店編(角川ソフィア文庫)。現代語訳・原文・解説という形で章立てされているので、原文と解説を飛ばして、現代語訳(通釈)だけを抜き読みしてもじゅうぶん鑑賞できる。
 
現代語訳・原文・解説ともに振り仮名がふってあるので読みやすい。現代語訳もわかりやすい。原文のルビは歴史的仮名遣いになっているので、慣れないと、最初は少し戸惑うかもしれない。
 
俳句の解説のほか、絵図・写真・コラム・地図・研究のガイド・俳句索引・芭蕉年譜・旅程図など、付録も充実している。『おくのほそ道』の入門書としてだけではなく、解説本としても重宝する。どれか一冊手元に置くならどの本がいいか、というならこの本をおすすめする。

おすすめポイント
  • 通釈(現代語訳)が分かりやすい。
  • 原文にもふりがながふってある。
  • 付録も充実している。
本の中身

『おくのほそ道(全)』冒頭部分の現代語訳を引用して紹介する。読み仮名は省略。引用元は、ビギナーズ・クラシックス日本の古典『おくのほそ道(全)』角川書店編(角川ソフィア文庫)11頁

時は永遠の旅人である。すなわち、月も日もそして年も、始まりと終わりを繰り返しながら、歩みを続けて止むことはない。
 
したがって時が歩みを刻む人生は、旅そのものであるといえる。旅客を乗せて送り届ける業者(船頭、馬方など)は、毎日が旅であり、旅のなかに住んでいるようなものだ。昔の有名な文人にも、旅のなかで一生を終えた人がたくさんいる。

とてもわかりやすい。通常の現代語訳ではなく、原文の理解に必要な語釈と説明が最小限度加えられているのが特徴。

俳句の口語訳

冒頭、一節目の俳句(草の戸も住み替はる代ぞひなの家=くさのとも すみかわるよぞ ひなのいえ)と和訳を一句、引用して紹介する。引用元は、ビギナーズ・クラシックス日本の古典『おくのほそ道(全)』角川書店編(角川ソフィア文庫)12頁

【原句】草の戸も住み替はる代ぞひなの家【現代語訳】この小家もこんど代がわりすることになった。新しく入る家族には女児がいると聞く。殺風景な男所帯から、おひなさまを飾る、はなやいだ一家に変わるのだ。

『おくのほそ道』の入門書は、これ一冊あれば、じゅうぶん。

すらすら読める奥の細道

『すらすら読める奥の細道』立松和平(講談社)

三冊目は、『すらすら読める奥の細道』立松和平(講談社)。原文・現代語訳・解説という形で章立てされている。原文には、すべてふりがながつけられている。
 
原文のふりがなは、歴史的かなづかいではなく、現代かなづかいになっているのが、この本の大きな特徴。現代かなづかいなので、本のタイトルにあるように「すらすら読める」。
 
この本は、『おくのほそ道』の入門書を読んだあと、原文を読んでみたいというかたに最適。原文の字も大きいので老眼鏡をかけなくても読める。『おくのほそ道』の魅力は、原文にあるので、この本は、声を出して朗読したい。
 
現代語訳と解説は飛ばして原文だけを音読していくことで、『おくのほそ道』の真髄にふれることができる。

おすすめポイント
  • 原文を音読するのに最適。
  • 原文のふりがなが現代かなづかい。
  • 文字が大きいので目が疲れない。
本の中身

『おくのほそ道』冒頭部分の原文とふりがなを紹介する。ふりがなは一部省略。引用元は、ビギナーズ・『すらすら読める奥の細道』立松和平(講談社)13頁

月日(つきひ)は百代(はくたい)の過客(かかく)にして、行(ゆ)きかう年(とし)もまた旅人(たびびと)なり。舟の上に生涯をうかべ馬の口とらえて老(おい)をむかうる者は、日々旅にして旅を栖(すみか)とす。古人(こじん)も多く旅に死せるあり。

現代かなづかいによるふりがながつけらているので、すらすら読める。
 
歴史的かなづかいだと、過客は「くわかく」、行きかうは「行きかふ」、生涯は「しやうがい」、とらえては「とらへて」、多くは「おほく」となる。
 
音読するには、歴史的かなづかいだとひじょうに読みにくい。『おくのほそ道』の原文を声を出して読んでみたいかたに愛読書としておすすめする。

おすすめ解説本

NHK「100分de名著」ブックス 松尾芭蕉 おくのほそ道

書籍「NHK『100分de名著』ブックス 松尾芭蕉 おくのほそ道」

価格:
1,100円(税込)

NHKの人気番組「100分de名著」で、2013年10月に放映された「松尾芭蕉 おくのほそ道」(全4回)の内容を再編成し、『おくのほそ道』全文と年譜などを加筆した解説本。
 
芭蕉はなぜ『おくのほそ道』を書いたのか、また単なる旅行記でないとすれば、この本には何が書かれているのか……(「はじめに」より)
 
『おくのほそ道』の読み方を指南してくれる。