フルッタ・メルカドンというブラジルのコーヒーを行きつけの自家焙煎珈琲店で飲んだ。焙煎度は中煎り。果実市場と称される天然酵母で熟成した珍しいコーヒーで、最初から最後までフルーティーな香りと味が楽しめた。
フルッタ・メルカドン
フルッタ・メルカドン(Fruta Mercadao)のフルッタとは、ポルトガル語で「フルーツ」、メルカドンは「市場」のこと。「果実市場」「フルーツ市場」などとも呼ばれるフルーティーなコーヒー。
収穫されたコーヒーの果実を樽の中に入れ、天然酵母を加えて発酵させるという独特の製法で作る。販売元のセラード珈琲によると「この製法は既にブラジルにて特許出願しており商標登録申請中」(※1)という。
※1 セラード珈琲「フルッタ・メルカドン」(https://www.cerrad.shop/)(2023年2月9日閲覧).
生産地
今回いただくフルッタメルカドンの生産地は、ブラジルのミナスジェライス州セラード地域。農園はドナネネン農園。
豆の特徴
豆は丸みを帯びてふっくらしている。
豆の大きさ(スクリーンサイズ)は、16~18(普通サイズから大粒)。ブラジルでは輸出できるのは、スクリーンサイズが 16以上とされている。粒は肉厚で形もそろっている。
焙煎度は中煎りなので、薄い焦げ茶色をしている。日本の伝統色でいうなら江戸茶(えどちゃ)に近い。
品種
品種はブルボン。カツアイが少々混ざっている。
ブルボンは、アラビカ種の派生品種。ブルボン島(現在のレユニオン島)へ渡った木を起源とし、ブラジルコーヒーの原型といわれる。実がたくさん付きやすく、完熟するまでも早い。
カツアイ(カトゥアイ)は、1949年にブラジルで開発された収穫量の多い品種。枝から落ちにくく強風や大雨に強い。低木なので、密集栽培に適している。ブラジルでもっとも人気が高い品種のひとつ。
ハンドドリップ
マスターがフルッタ・メルカドンをハンドドリップする様子を YouTube ショート動画に収めた(上の動画)。中煎りなので、粉の膨らみは深煎りのようにモコモコとはならないが、きれいにゆっくりと膨らんでいく。
味の感想
ひとくちめは、フルーツの香りを感じた。
ほどなくすると、アプリコット・グランベリー・ストロベリーなど、いろいろな果物の味が次々に出てきた。最後は、ほのかな赤ワインのような香りになった。しっかりとコーヒーのコクも感じた。飲み終わったあともフルーティーな香りがずっと残った。
ひとことでいうと「フルーティーなコーヒー」だった。
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カップ&ソーサーは、ウェッジウッドのアレクサンドラ シャンパン(ALEXANDRA CHAMPAGNE)。濃淡二色のシャンパンゴールドカラーが、華やかさと格調高さを醸し出している。優雅なコーヒータイムが楽しめた。
後記
ブラジルのコーヒー事情について調べた。出典は『新版 THE COFFEE BOOK』(※2)。以下、引用抜粋。
1920年、ブラジルのコーヒー生産量は世界の80%を占めていました。その後は他国が増産するについてシェアが下落。現在では35%となっていますが、最大の生産国であることには変わりません。
1975年に壊滅的な冷害に見まわれたことを受け、ミナス・ジェライス州などに新たなプランテーション(大規模農園)が多く設立されました。今ではこの州だけで国内生産量の約半分を占め、その生産量は世界第2位のベトナムに匹敵します。
ブラジルのコーヒーが豊作なの不作なのかは、世界市場に波及し、影響を受ける人は計り知れません。[中略]今日、ブラジル全国に広がる農園の数はおよそ30万。規模は大小さまざまです。また生産量の半分は国内で消費されます。引用元: 『新版 THE COFFEE BOOK』(※2)
※2 アネット・モルドヴァ著/丸山健太郎監修(2021)『新版 THE COFFEE BOOK』誠文堂新光社「ブラジル」112頁
続・後記|焙煎二日後
前回は焙煎初日のフルッタ・メルカドンをいただいたが、焙煎二日後に再度いただいた。二日間熟成させたフルッタ・メルカドン。どんな味になっているのか。飲み比べてみた。
豆の状態
豆の状態は前回いただいたときと変わらない。深煎りだと、数日たつとコーヒーオイルが出始めていることが多いが、中煎りなので、見た目の変化は焙煎したてと同じ。豆が放つフルーティーな香りは若干、増したように感じる。
ハンドドリップ
マスターがハンドドリップする様子を前回(二日前)と比べた。前回は、焙煎初日だったので、炭酸ガスが抜けきっていないせいもあって、粉のふくらみが、中煎りにしてはモコモコ感があった。
二日後の今回は、炭酸ガスが抜けてきたせいか、粉のふくらみが、ゆっくりときれいにふくらんでいった。フルッタ・メルカドン独特のフルーティーな香りがカウンター席まで漂ってきた。
味の感想
前回(焙煎当日)は、ひとくちめのフルーティーな香りが強烈だったが、今回(焙煎二日後)は、まろやかな果実系の酸味に変わっていた。
ほどなくすると、ベリー系やトロピカルフルーツ系の香りが次々にやってきて、前回は感じなかったバナナの風味もほのかに感じた。マカダミアナッツのような香りもかすかにある。
後半になると、赤ワインのような香りと、ブランデーを思わせる芳醇なコクも出てきた。飲み終わったあと(アフターテイスト)は、フルーティーな香りが口の中にずっと残った。
焙煎当日よりも味はまろやかになっていた。果実系の風味が複雑に変化していく様子が楽しめる、なかなか希有なコーヒーだった。
後日譚
このフルッタ・メルカドンは、お客さんたちにも評判で、二日間で完売。マスターが急きょ、三日目の朝、焙煎した。二回目の完売もあっというまに違いない。
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取材場所
本記事の取材場所は越谷市下間久里(しもまくり)にある行きつけの自家焙煎珈琲店・珈家(かや)。写真は珈家のカウンター席で撮影させていただいた。
参考資料
本記事を作成するにあたって、引用した箇所がある場合は文中に出典を明示した。参考にした文献は以下に記す。
・成美堂出版編集部(2015)『珈琲の大辞典』成美堂出版.
・西東社編集部(2017)『極める 愉しむ 珈琲事典』西東社.
・ジェームズ・ホフマン/丸山健太郎監修(2020)『ビジュアル スペシャルティコーヒー大辞典 2nd Edition』日経ナショナル ジオグラフィック社.
・アネット・モルドヴァ著/丸山健太郎監修(2021)『新版 THE COFFEE BOOK』誠文堂新光社.