2024年10月26日・11月28日。松伏町金杉の寺院・覚性寺(かくしょうじ)境内にある二基の供養塔を調べた。調査した石塔を写真とともにお伝えする。
覚性寺
まずは覚性寺(かくしょうじ)について簡単にふれておく。
創建年代は、つまびらかではないが、江戸前期・明暦年間(1655-1658)建立と伝えられる。山号・寺号は「雨宝山 覚性寺」。宗派は真言宗智山派。現在の本堂は、平成27年(2015)に建て替えられた。
『松伏町史』によると「石川民部家(※1)が整備した民部寺と通称される二十三ヶ寺の一寺である」(※2)という。
※1 石川民部(いしかわみんぶ)…出自は不詳ながら戦国時代に帰農し土着した武士と伝えられている。石川家の当主は民部の名を世襲し、江戸時代初期に松伏領の開墾や菩提寺の静栖寺(じょうせいじ)を本寺として23の寺院を整備。松伏の発展に大きく寄与した。
※2 『松伏町史 文化財編(石造物・絵馬・指定文化財)』松伏町教育委員会(令和6年3月22日発行)「覚性寺」74頁
二基の供養塔
それでは境内にある二基の供養塔を見ていく。
供養塔|天明6年
向かって右側は、大日如来座像付き供養塔。
江戸後期・天明6年(1786)8月造塔。構造は、上から大日如来座像、蓮台(れんだい)に載った角柱型の石塔、三段重ねの台石。
大日如来座像
石塔型式は舟型。腕の前で智拳印(ちけんいん)を結び、結跏趺坐(けっかふざ)する金剛界の大日如来座像が浮き彫りされている。
石塔
大日如来座像の下、蓮台に載った石塔の各面には、三尊が浮き彫りされている。
正面
正面に浮き彫りされている三尊は、中央上部に阿弥陀如来座像、向かって左下が観音菩薩立像、向かって右下は不動明王立像。
右側面
右側面に浮き彫りされている三尊は、中央上部に釈迦如来座像、向かって左下は文殊菩薩立像、向かって右下は弥勒菩薩立像。
左側面
左側面に浮き彫りされているのは、中央上部が薬師如来座像、向かって左下は地蔵菩薩立像、向かって右下は虚空蔵菩薩立像。
背面
背面に浮き彫りされているのは、中央上部が阿閦如来(あしゅくにょらい)座像、向かって左下は普賢菩薩(ふげんぼさつ)立像、向かって右下は勢至菩薩立像。
台石
上段台石の正面と両側面には銘が刻まれている。
正面
正面の銘は「奉供養」「光明真言百万遍」「普門品拾万遍」。光明真言(こうみょうしんごん)を百万回、普門品(ふもんぼん)を十万回読誦(どくじゅ)したことが刻まれている。
右側面
右側面の銘は「天明六午天 八月吉日」「為先祖代々」「有無縁菩提也」「施主 蓮真」とある。
正面と右側面の銘から、読誦(どくじゅ)供養塔と無縁仏供養塔を兼ねた供養塔であることがわかる。
左側面
左側面には「天明四辰天」「法印本永」「四月吉日」「明和八卯天」「法印快秀」「正月朔日」と刻まれている。
※大日如来座像付き供養塔の撮影日は 2024年10月26日
供養塔|文化13年
向かって左側の石塔は、江戸後期・文化13年(1816)造塔の光明真言(こうみょうしんごん)供養塔。
石塔型式は、多宝塔の構造になっている。上から相輪(そうりん)・笠・水輪(すいりん)・塔身(とうしん)・基礎・台石。
水輪
笠の下、蓮台(れんだい)の上に載った水輪(すいりん=丸い部分)の四面には、四仏(※3)の種子(しゅじ=梵字)が刻まれている。
※3 四仏(しぶつ)とは、密教で大日如来の四方に位置する仏。東は阿閦(あしゅく)如来、南は宝生(ほうしょう)如来、西は阿弥陀(あみだ)如来、北は不空成就(ふくうじょうじゅ)如来。
四仏の種子
(上左)正面の梵字は「タラーク」。南の宝生如来(上右)右側面の梵字は「ウーン」。東の阿閦如来(下左)左側面の梵字は「キリーク」。西の阿弥陀如来(下右)裏面の梵字は「アク」。北の不空成就如来
塔身の銘
塔身(種子の下)には、全面に銘が刻まれている。
正面
正面の銘は「為先祖代々有無縁菩提也」「性徳院等於言心居士」「天明六丙午八月卄八日」「遍明院有法妙本大師」「文化元甲子三月六日」
右側面
右側面の銘は「觀察院了山道応應居士」「文化九申三月十七日」「離障院能證覺智居士」「文化十酉七月卄七日」
左側面
左側面の銘は「法輪院照山融覺居士」「享和元辛酉歳」「八月十八日」
裏面
裏面の銘は「奉誦光明真言壱百万遍」「文化十三年子四月十二日」「青雲善童子」
「奉誦光明真言壱百万遍」の銘から、この石塔は、光明真言(こうみょうしんごん)を百万遍読誦(どくじゅ)した記念に建てられた読誦供養塔であることがわかる。
基礎
基礎(三段重ねの台石)の部分には銘は刻まれていない。
※光明真言読誦供養塔の撮影日は 2024年11月28日
おわりに
石塔の銘については、風化や劣化で読みとれない箇所や読みにくい文字も多々あった。正確を期すために、本記事を作成するにあたっては、『松伏町史 文化財編(石造物・絵馬・指定文化財)』松伏町教育委員会(令和6年3月22日発行)221頁-222頁と照らし合わせた。
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埼玉県松伏町金杉の覚性寺(かくしょうじ)入口横にある庚申塔や十九夜塔などの供養塔が並ぶ石仏群を調べた。場所は中川に架かる松の木橋(東詰)の東北東100メートルのところにある。
場所
覚性寺(かくしょうじ)の場所は、中川に架かる松の木橋(東詰)の東北東100メートル。金杉小学校の南。住所は埼玉県松伏町金杉1788( 地図 )。車は石塔群の前に駐められる。
参考文献
本記事を作成するにあたって、引用した箇所がある場合は文中に出典を明示した。参考にした文献は以下に記す。
『松伏町史 文化財編(石造物・絵馬・指定文化財)』松伏町教育委員会(令和6年3月22日発行)
庚申懇話会編『日本石仏事典(第二版新装版)』雄山閣(平成7年2月20日発行)
日本石仏協会編『石仏巡り入門―見方・愉しみ方』大法輪閣(平成9年9月25日発行)
日本石仏協会編『新版・石仏探訪必携ハンドブック』青娥書房(2011年4月1日発行)